スタスタと、僕の前を歩く真乃は、握っている。僕の袖を、ぎゅっと。

いつまで握ってるんだとか、放せよとか、そんなことは言わない。

彼女が握っていてくれているおかげで僕は、目の前のことから逃げているのにどこかに繋がっていられる気がしたからだ。

「……」

「……」

真乃は、なにも言わない。言わないまま、僕を引く。

黙っているんじゃなくて、ただ、なにも言わない。と僕は感じた。

そうして、サザンカが咲いている場所を過ぎ、春になったら桜が誇る場所を抜け、いつだったか、彼女が水切りをした小川に着いた。そこでようやく、彼女は僕の袖を放す。

「はい、終点」

「え?」

「ここで終点なのよ、私、いつも」

ひょいと腰を屈めた彼女は、二、三個、手ごろな石を手に取ると、水面に向かった。いつかのようにまた、水切りを始める。

「お散歩でもジョギングでも、ここがいつも私の折り返し地点で、終点なのよ。ここから先は私にはないし、ここから先に行ける勇気もないわ」

「……」

 行くと言っても、ここから先は小川で、向こう岸へ行くためには公園を出て橋を渡らなくちゃいけないんだけど……でも、そういう意味じゃないんだろう。