「触りなあ。ちなみに、どんなこと知ってる?」

「どんなって……介護福祉士は、そのまんまじゃないすか。介護でしょ」

「んーぅ、そう言われると、元も子もないんだけどなあ」

そりゃあ、そういう風にしないと物語がおもしろくならないのは、解かる。

だけど、そんな都合のよさは、現実には一篇たりとも転がっちゃいない。

「じゃあ榊原、その『触り』ってのはどんなことだ、言ってみ?」

実際に今現在、僕はその現実をちゃんと見据えられていないよう注意人物(のひとり)として、職員室に呼びつけられているのだ。

「ええ、と」

僕は担任の春山に言われて、少し眉を寄せた。

説明しろと言われると、調べたと自負したくせにイマイチハッキリと口にすることが出来ない。

調べた内容が本当に氷山の一角でしかないこともそうだし、正直、介護福祉士はタコの言葉で閃いた、進路の『予定』だ。

じりじりと夏の日差しが照りつけるように、僕らの卒業と、社会への旅立ちは刻一刻と暑苦しく迫っているというのに、僕はその辺、ずいぶん出遅れていた。