すると彼女は、

「っ、ダメよ、冬弥……っ、放して、やんない……!」

すばやく手を伸ばし、しっかりと僕の服の裾を掴んだ。と同時に、遠くのほうから、

「おいこら~、冬弥ぁあ! てめぇなにいきなり走ってんだああ~!」

デンさんが、ガタガタと車椅子を強引に押しながら、怒声を張り上げてきていた。

かなりの距離を走ったつもりだったけど、何度も曲がったりしたから、病院からはあまり離れられなかったらしい。真乃にもそうだけど、まさか追いつかれるなんて思わなかった。


信号の反対側で、デンさんは捕まった。

「冬弥、そこで待ってろよ! 真乃ちゃんも放すんじゃねえぞ!」

と、デンさんが大声で言う。

このままここで待っていたら、なぜ逃げたのか、いろいろ探られることは、簡単に推測できる。

なんで逃げたんだって訊かれたらその次は、なに考えてるんだって、訊かれるんだ。

そんなことは、イヤだ。訊かれたくない。イヤなのに、体が、逃げようとしなかった。