オレンジ色にして

「おーぅ、秋ちゃんと冬弥じゃねーか」

ちょうどそこへ、相変わらずのねじり鉢巻と作務衣というキテレツな格好のデンさんが、手を振って近づいてきた。

「なんだなんだ、秋ちゃんの検診か?」

と訊ねる彼の手首には包帯が軽く巻かれていたけど―――僕にはそんなものなんて、目に入っていなかった。

彼がなんでここにいるかなんて、どうだっていい。

ただ、デンさんがそこにいる。それだけが、救いになった。

姉貴が、こんにちは、と悠長にあいさつしている間に、

「デンさん、お願いします」

「は? なに言って―――あっ、おい、冬弥!? どこ行く!」

「! ―――っ、冬弥!?」

僕は『今』という状況をなにもかもかなぐり捨てて、その場から走り去った。

違う。逃げた。

ただ、姉貴と一緒にいたくなくて、もう、あんな目で見つめらていたくなくて、逃げた。逃げることでしか、自分を保っていられなかった。

そのことが解かるからなおさら、

(僕は、もう、ダメだ……!)