オレンジ色にして

僕は、真乃が姉貴だと解かってる。姉貴は、僕の姉貴だ。そんな対象には出来ないし、しちゃいけないし――

(それに―――)

なんとはなしにその時、姉貴を見れば、また僕の嫌いな顔をしていた。

(それに、こんな顔の姉貴は、嫌いだ)

彼女は、僕にとってそういう存在じゃない。

密かに、姉貴の後ろに座っていた僕は、膝の上で拳を握り、堅く、力を込めた。そして
また、必死に心の中で、呪文を唱える。

違う、違う……静まれ、静まれ……違う、違う……そうじゃない、そうじゃない……

「あら、そんなことありませんよ、秋乃さん魅力ありますもの」

「だって、そんな、私なんて」

気がつけば、僕がひとり相撲をしている間に、いつのまにか姉貴と仲代先生の話題は、姉貴の色恋沙汰に移行していた。

「うーん、だいたいの精神科医は『恋愛』を、心神を乱すってことで敬遠しますけど、私は反対に特効薬だと思ってるですよ。

恋人がいたらその人が秋乃さんを支えるって形で、心の平安を得られるんじゃないかって思っていたんですよぉ?」