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方向といえば―――

「はい、おはようございます、秋乃さん」

「ぁ、おは、おはようござます」

姉貴の経過も、方向的には良好に進んでいる。

診察を受け初めて一ヶ月も経てば、姉貴もだいぶ落ち着いた様子だった。とは言っても、表情は明るいわけじゃないけど。

「今日の診察はここまでね。真乃さんも素直になりましたし、秋乃さんもだいぶ催眠に慣れてきたみたいですね。まだ第一段階ですけどね、記憶の統合は、思いのほか順調よぉ」

「そうですか。そりゃよかった」

と、車椅子を押すために着いてきた僕。

デスクの引き出しをがしゃっと開けて、中からブロックのチョコレートを鷲掴みにした仲代先生は、メガネの奥でやんわり微笑んだ。

「真乃さんがまた自殺願望さえ出さなければ、このまま、なにもかも上手くいくかもしれませんねぇ」

そうして、差し出されるのはいつもの、チョコレート。

診察の前とあとに、仲代先生は姉貴にこれをすすめる。おまけのように、僕にもひとつ先生は渡してくる。