『タコ』こと大壷の家は、商店街でも老舗の魚屋だ。

あそこのオヤジさんには、ちょくちょくいい魚が入ったと教えてもらってる。

タコと知り合ったのも、学校というより、そっちが先だった。

ちなみにタコというのは、ヤツのあだ名だ。大壷という珍しい苗字から『タコ壺』に繋がって、それが略された結果、タコになった。

もちろん、悪い意味じゃない。絶対、悪い意味じゃない。密かに僕が保障しよう。

根はいいヤツだとも保障できるタコが、言う。

「榊原こそさ、家の姉ちゃんが車椅子だろ?なんかそっち方面で考えてねえの?」

「そっち方面って?」

『進路は決まっていますか?』は『はい』で、『就職ですか?進学ですか?』は『就職』で、『具体的に、なにを、どこを考えていますか?』はまだ白紙の僕が訊き返すと、

「だからほら、介護福祉士とか、あっち方面」

『進路は決まっていますか?』が『いいえ』のタコは、アンケートの裏にあみだくじを書いていた。

なに考えてんだろう、コイツ。