「おやっさん、いつもの」

「あいよ」

そして真乃が注文したのは―――姉貴が『いつもの』というヤツとは、違った。

クリーミーな色合いをしたスープと麺が別の器に盛られた、つけ麺だった。姉貴のいつもの特盛とは、似ても似つかない。

「前にちょっと、ここに寄ってね。というか、おやっさんに呼び止められてね」

「……」

なにも訊いていないし、話してくれなんて言っていないのに、真乃が語る。

「秋乃ちゃんかい? って呼ばれちゃってね。秋乃さんの知り合いだって解かったわ。でもほら、話せないことはあるでしょ?」

そして一方的に訊いて、彼女は一口、スープにつけてそばのようにラーメンを食べる。飲み込んで、真乃がまた言う。
静かに、僕だけに聞こえる声で。

「仕方ないから、秋乃さんの親戚ってことにしたわ。そしたら、秋乃さんがここの常連だから寄ってけってね。顔がまさにそっくりだから、おごってやるって」

迷惑だってことを言いたいんだろうか? と、思った。

「私、秋乃さんとは別の記憶があるのに、私が今まで生きてきた形跡がどこにもなかった」

けど、そうじゃなかった。