「こういうのはね冬弥ぁ、観察なんだよ、観察ぅ」

「カンサツ?」

「そー、観察ぅ」

小さい僕には、難しい言葉だった。

夏休みの宿題みたいに聞こえたし、あの時は正直、頭の上に『?』マークを浮かべたのを覚えている。

母さんは、あまり丁寧になにかを教えてくれる人じゃなかった。

フィーリングで身につけさせる人だった。だから、珍しく丁寧に話をしてくれる時はいつも、しゃがみ込んで、僕と視線を合わせてくれていた。

「観察ってねー、すごいんだよー? 人がやってることはじっと見てたらやり方が解かるしー、そのうち自分でも出来るようになるんだよー。それに、気持ちまで解かっちゃうの。

だから、いーい冬弥? 料理でもなんでもそうだけどー、自分が向き合ってる相手や物事は、ちゃーんと観察しなきゃダメだよー?」

僕はこれをその時、料理中は包丁や火を使うのだから、よそ見をしちゃいけないよ、という風に受け取っていた。

まあ、今となっちゃこれは、

(現実から目を背けるな。自分が抱えた問題から逃げるな―――ってことだったのかな、あれ)

ひどく、シリアスに考えるようになっていた。