あの時僕は―――

なんだかいつもと味が違う、と小首を傾げる姉貴や夏輝に内緒にして―――

火の取り扱いや、包丁でのとかのヘマをやらないように、母さんに隣で見ていてもらうだけだった。

だから、母さんの味の秘訣は、教えてもらわなかったんだ。

「どうやったら、母さんみたいに美味しくなるの?」

と、純粋に訊いたことがある。

思えば、あんな小さい時から、自分の無能さを痛感していた僕は、なんて老成したガキだったんだろう。

だけど母さんは、

「さあ、どうかなー?解かんないなー。母さん、普通にやってるだけだからなー」

「普通って?」

「普通には普通にだよー」

そんな風にとっぽい言い方ではぐらかして、結局教えてくれなかった。

料理を教えてくれていたはずなのに、満足には教えてくれない。

それでも教えてくれていた。なんだか矛盾しているようだけど、僕は教わったつもりだ。

それでも、一度だけそれに付け加えられたことがある。