ゆっくり……本当にゆっくり……

美味しいコーヒーを入れるため、

味の締まった漬物を作るため、

紅茶のいい風味を出すため、

丁寧に手間を掛けるように……

三十秒くらい掛けて、一息を吐き尽くした。

ようやく、文字通り、心機一転した僕は、静かに言う。

「夏輝、おとなしく姉貴の言うこと聞けよ。でないと明日、ほんとにネギ入れるぞ」

「ううっわ、心せまっ! お姉ちゃん、お兄ちゃんがいじめるよ~ぅ、オーボーだよー!」

「まあまあ、二人とも、だからその辺に、ね?」

そして―――またしても浮かんだ姉貴の微笑みに、

(そうさ、真乃は姉貴。姉貴が真乃だ。――どうかしてたんだ、僕は、さっきまで)

今度は、なにも感じなかった。