「でもお料理上手なのはいいな。私も習おうかな?」

細められている瞳が僕に向いて――ああ、やっぱり違うな、と痛感しながら、答えた。

「無理だろ姉貴じゃ。スープ火に掛けて蒸発させたぐらいだからな」

「ちゃ、ちゃんと一から十まで教えてくれれば出来るわ」

「さあて、どーだか? それに家事って、一から十まで教えようがないもんだぜ? 日常生活のものだし、料理上手になりたいってヤツはたいてい後片付けまでは考えてないから、教えんのはやだよ。火の粉が飛ぶのは俺だし」

それから、車椅子で料理をするのは少し危ない――とも思ったけど、車椅子生活がネックで『出来ること』が限られていることを持ち出すのは、我が家のタブーだ。口にはしない。

「もー、またそんな意地悪言うんだから~」

「いいから俺の作ったもんおとなしく食ってろって。誰かが珍しく成功するより、ずーっと美味いだろ?」

それもそうだけど、と姉貴はうなずき、まあね、と夏輝は軽く流した。