今度は苦笑じゃない、ただの、笑みが零れた。

「ああ、ちゃんと買ってきたよ、百パーセント果汁のヤツ」

「おっ、やた♪」

と素直に喜びを表した彼女は、ポンと両手をさせて、ニッコリした。

「ありがとね、冬弥」

そのない笑顔を見た途端―――

(な、なな、なんだよ……そんな顔して)

胸の辺りが一瞬、むずがゆくなって、同時になぜだか急に恥ずかしくなって、顔を背けた。

「べっ、別に。そーゆーの俺は気が回るほうだし、気にすんなって」

「ふふっ、そう? でも、ありがと」

「だから、いいって!」

顔を見ていないのに、また目の前にさっきの微笑みが浮かんで、もっと恥ずかしくなって、僕はそれから、なにも言わずに階段を降りた。

散らばってしまった袋の中身を拾いながら、必死に呪文を唱えていた。

(くそ、静まれ、静まれ)

喉の奥が熱くて、頬がこそばゆい。

胸の奥のほうに箱があって、その箱の中から、ぶわっ、ぶわっ、と火の粉が漏れているようだった。

箱の内側ではものすごいが控えていて、それが飛び出そうとしているみたいに。

そしてその炎は、あまり燃やしていいものではないと、直感していた。