だから僕は、

「…………さあ。んなもん、解かんないって」

意味深な沈黙を前振っておきながら、曖昧に答えることしかなかった。

真乃が唸る。

「なーによなによ、こっちはアナタが気になって調べてたってのに。ずいぶんな反応の差よね」

「? 調べてたって、なにを?」

よっこらせ、とぼやきながら、腕の振りで上半身を起こした彼女は、また押入れの中に頭から突っ込んだ。

「なんだかずっと頭のどこかに引っ掛かっててね。やっぱり私、アナタに以前会ったような気がするのよ。いつだったか、どこだったか解からないんだけど」

「はあ? またその話? ちょっと考えて無理だろ、ありえないだろ、それ」

真乃は、姉貴が最近になって生み出した、彼女じゃない彼女だ。

あれから僕も、仲代先生から話を聞いたり、インターネットで調べたりしたのだけど、

やっぱり多重人格者っていうのは、現実に出て行動している人格が、行動している間だけ、記憶をらしい。

だとしたら、真乃が幼い時に僕と出会うのは、理論的に考えたって、不可能なんだ。

時間が、時期が、あまりに違い過ぎてる。猫型ロボのタイムマシーンでもないと無理な話だ。