「帰ってみたら靴が脱ぎっぱなしで、返事はしないし、心配したんだからな、こっちは」

その時下のほうで、がしゃがしゃがしゃと、とんでもない音がした。

(な、なんだよ、今の? ――あ)

頭を冷やすことも数秒、今のは、買ってきたものが靴箱の上から、盛大に落っこちたのだと理解した。

時々、ビニール袋が破れてしまった時に、聞いたことがある音だったのだ。どうやら、あまりにテキトーに放置し過ぎたらしい。

今度こそ苦笑して、転がったままきょとんとしている彼女に、言う。

「あんまし心配し過ぎて、買ってきたもん台無しだ」

すると彼女は、僕の視線を捉えたまま、

「――それ、私を心配してくれたの? それとも、秋乃さんのほう?」

と訊いてきて――

「――」

なんと答えればいいのか、解からなかった。

いや、心の表面じゃ、一番解かりやすいところじゃ、姉貴を心配していたから、そう答えればよかった。姉貴だって。

だけど、どこか深いところじゃ、姉貴よりもひょっとしたら、真乃そのものがに出てしまうことが怖かったような……彼女が突然いなくなったことが、恐ろしかったような、そんな気もした。