左手は姉貴の部屋だ。廊下は突き当たると左に折れていて、トイレ、洗面台、風呂場の順だ。

「真乃!」

姉貴じゃなく、彼女の名を呼びながら勢いよく開けた姉貴の部屋には、誰もいなかった。

イヤな予感が募っていく。頭の中をこの前、突然包丁を喉もとに突きつけた真乃の姿が、ぎる。ただただ、予想でしかないのに、彼女の脱いだ靴が乱れていただけなのに、焦燥感に駆られる。

危機感。喉の奥から、えもいわれぬ恐怖が這いあがってくる。

僕がいない間に、真乃が、姉貴が……考えたくもない!

「真乃! どこだ、真乃!」

ほとんど怒鳴りながら、キッチンへ入った。

そこには、包丁を突きつけている真乃はいなかったけど、むしろ、そこにそうしていてくれたら、今すぐにその行為を止めるだけですむ。

頭が火に掛けられているように、ドンドン働かなくなって、焦って慌てていくのが自分で解かった。

「真乃ぉ!」

おかしいのはむしろ僕なんじゃないかと思った。

夏輝が見たら目を白黒させ、

姉貴が聞いたらノイローゼになってしまうんじゃないかというくらい。