「違うわ、もっともっと、前よ。ものすごく、ずっと前に――ほんと、小さい時に」

「ず、ずっと前……? 小さい時……?」

彼女の言葉に一瞬、僕は現実か神様がいたずらしているのかと思った。

真乃が現れるようになったのは、最近のことだ。母さんが死んでしまってから。

それなのに、ずっと前?

(そんなバカな)

と思った。

なにかの間違いたまろうし、そんなことありえるはずがない。

だいたい、もしも仮に真乃と僕がずっと昔に逢っていたら、姉貴は幼い時から多重人格障害だったということになる。

こういうものに潜伏期があるのかどうかは知らないけど、まさか、神様はそこまで意地悪じゃないだろうし、それはないだろう?

「な……ないと思うぞ。そもそもお前が出てきたのは最近だし――時間的にありえないだろ?」

「う~、ん……そう言われれば、そう、なんだけど……」

どことなくまだ納得していない様子の彼女は、僕を見上げるのをやめ、前を向いた。