オレンジ色にして

チラリとその時、仲代先生が僕へ視線を投げ、それが、ひょっとしたら真乃に『多重人格』のことを話すかもしれない、という合図だと思った。

「――あと、記憶が途切れてしまうとか」

この、いよいよ核心を突くような質問が出たことに、

(来た)

予想はしていても一瞬、息を飲んだ。

けど、

「ああ、あるある。あるわよ、それ」

真乃のほうは、大した反応を見せなかった。

昨日のテレビ見た?

うん、見た見た。

ぐらいの反応だった。

ものすごい、空振りをしたような気さえした。

「最近やけに記憶が飛ぶのよね。さっきもこの病院来てからここの診察室? までの記憶がないのよ。疲れてんのかしらね」

「まあっ、お疲れなら――どうぞ?」

「ん、あら、ありがと」

仲代先生は、『記憶が飛ぶ』=『姉貴と人格が代わっている』ということは言わず、むしろそんなことはさらりと流した風に、デスクから出したチョコレートをひとつ、真乃に渡した。