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僕にか、もしくは吹いている風に向けてか、彼女が囁いた。

「ちょっと、起こしてくれる?」

「? ……起こすって?」

「立たせて」

だっこをねだる子供のように、姉貴の両腕が僕へ伸ばされる。

今までそんなお願いされたことがないだけに、なぜ? と思う。

だからそのまま、

「なん、」

「早く。いいから」

なんでだよ、と訊ねるよりも早く、彼女は言葉と眼差しで僕を制した。

姉貴の黒い双眸が、じっと見据えてくる。

言葉だけじゃない、目までもが。

敵意までも、まさか込められているような気がした僕は、急に、姉貴に責められていることが、怖くなった。