「いえ、そんな、大丈夫ですっ、そこまでしてもらわなくても……! 弟が――」
『冬弥』ではなく、『弟』という肩書き、立場で呼ばれたのは初めてだったから、イヤに、耳に響いた。
「――いますし、広田先生だってお仕事があるでしょう……? そこまでしていただくのは悪いですから」
「そうですか?」
訊き返す広田医師に、姉貴は何度も首を縦に、小刻みに振って、
「大丈夫です、ほんとに。外科のほうにはあとからちゃんと行きますから」
「そうですか」
と、今度は疑問ではなく呟いた広田医師は、スイと姉貴の後ろから離れると、僕のほうをちらりと見やった。
まるで電車の中で席を譲るみたいにして、
「それでは、秋乃さんをお願いしますよ、冬弥くん」
「……」
そしていまさらながら、当然のように広田医師が姉貴のことを、『秋乃さん』と下の名前で読んでいるのが、
悔しいというかもどかしいというか……
あまり、気に食わないと思った。
『冬弥』ではなく、『弟』という肩書き、立場で呼ばれたのは初めてだったから、イヤに、耳に響いた。
「――いますし、広田先生だってお仕事があるでしょう……? そこまでしていただくのは悪いですから」
「そうですか?」
訊き返す広田医師に、姉貴は何度も首を縦に、小刻みに振って、
「大丈夫です、ほんとに。外科のほうにはあとからちゃんと行きますから」
「そうですか」
と、今度は疑問ではなく呟いた広田医師は、スイと姉貴の後ろから離れると、僕のほうをちらりと見やった。
まるで電車の中で席を譲るみたいにして、
「それでは、秋乃さんをお願いしますよ、冬弥くん」
「……」
そしていまさらながら、当然のように広田医師が姉貴のことを、『秋乃さん』と下の名前で読んでいるのが、
悔しいというかもどかしいというか……
あまり、気に食わないと思った。