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おいこら、って思った。

いや、なんでかと言うと――

「ン? こちらはどなたで……?」

「あ、あの、こっちは弟の冬弥です」

「どうも」

「弟くん? ああ、そうですか。どうも」

と、僕が姉貴から紹介された時の、広田医師の反応があまりにも、あまりにも軽かったからだ。

だから、

(おいこら、なんだそのかるーいの、おいこら)

と思ったわけだ。

ついでに言えば、

(おいこら、そこどけ、おいこら)

広田医師が姉貴の車椅子を、僕に代わって、けれど自然と押していることにも、少し不満を覚えた。

母さんがいなくなってしまってからは僕の居場所だった、僕の役目だった、車椅子を押すポジションを、グリップを、広田医師が握っている。

なんだかとてつもなく、果てしなく、疎外感と喪失感が胸の奥に生まれる。