オレンジ色にして

「冬弥、起きれないの。手伝って」

黒くて、いつまでも憂鬱な雨を眺めていそうな眼差しが、真乃とは正反対な瞳の色が、僕を見上げてくる。

なにもかもが彼女そのまま――いや、そのものだ。

(よかった。姉貴だ)

ホッとして、床に倒れてしまっている彼女を起こそうと、手を差し出した時、

「秋乃さんっ!」

姉貴の名前を呼ぶ溌剌とした声が、ロビーに響いた。

猫騙しを食らったような気がして、つい出した手を引っ込める。

姉貴と一緒になって振り向けば、白衣を着た背の高い男の人が、吹き抜けを斜めに通っているエスカレーターから、トントンと軽快な小走りでこちらに向かってきていた。