空のこぼれた先に


一瞬、言われた意味が分からなかった。

だって俺は、泣いてなどいない。

────はずだったのに。



「え、」

ふいに、するりと一筋の雫が頬を伝った。

まだ薄暗い部屋ではその雫は見えなかったけれど、頬を滑っていったのは、たしかに涙の感覚だった。


「なんだよ、これ……」

思わず口からはそう零れていた。

だって、涙が出るような予感はなかった。

クレアの寝顔に、声に、サユの面影を見て、たしかに泣きたいくらいの痛みが胸を刺したけど。

触れたぬくもりが欲しい人のものではないことに、泣きそうになるほど胸が締め付けられたけど。


だけど、まさか本当に泣いてしまうなんて、自分で自分に驚いてしまう。


「大丈夫?」

思わず下を向いていた俺の顔を覗き込んでくるクレアが、心配そうな声でそう言って、そっと手を伸ばしてきた。


「っ」