空のこぼれた先に


「ん……、フレ、イ?」


ゆっくりとクレアが目を開けた。

そして自分を見下ろす俺を見て、髪や瞳の色で勘違いをしたのか、フレイの名前を呼ぶ。


寝起きの声さえ、愛しい人のものとよく似ている。

きっと、クレアが間違えずに俺の名前を呼んでいたら、我を忘れて抱きしめてしまっていただろう。


俺はゆっくりと、彼女に触れていた手を引っ込めた。


するとクレアはぱちぱちと何度か瞬きをして、少し恥ずかしそうに笑う。

呼び間違えたことに気が付いたらしい。


「おはよう、カノン」


微かに笑みを浮かべてそう言うと、彼女はベッドから上半身を起こした。

そしてまっすぐに俺を見上げ、目が合うと、途端に驚いたような顔をして。


「どうして泣いてるの……?」


心配そうな声で、そう訊ねてきた。