空のこぼれた先に



寝相の悪い姫、って……。

俺は小さな溜息と共にソファから腰を上げた。

クレアの眠るベッドに近づくと、すやすやと心地良さそうな寝息が聞こえてくる。

落ちかけていた布団を直してやると、もぞ、とその布団の中で早速身じろぎをするクレア。

そのとき、横向きに眠っていた彼女が、仰向けに寝がえりを打った。


「っ」

瞬間、気持ちよさそうに眠るクレアの顔が見えて、その寝顔から目が離せなくなってしまった。

冷静になったはずの頭が、再び真っ白になりそうになる。


「サユ。……サ、ユ」

目の前で眠るのは、サユじゃない。

分かっているのに、愛しいひとの名前が溢れてしまう。

クレアの寝顔が、サユのそれとあまりによく似ているから。

閉じ込めていた思い出が、勢いよく心の中に溢れてくる。



思わず伸ばした手のひらが、クレアの額に触れていた。

感じるあたたかさに、涙が落ちそうになる。


この温もりはサユのものじゃないと、分かっているのに。