空のこぼれた先に


「これだけ言ってもまだ私のことを訊くのなら、答えてあげる。ただ、そうすればもうあなたを解放してはあげられないけど。

……だから。覚悟がないならこれ以上は訊かないで」


令嬢は、フード越しに俺を見上げた。

顔は見えないけれど、まっすぐに俺の返事を待っているのだと分かって、思わずごくりと喉が鳴る。

そして俺は、気が付けば頷いていた。


「悪いけど、あんたが何者だとしても、どんな事情があっても、守りぬく覚悟はもうできているから」


今更逃げ出すなんて、俺にはできない。

俺の言葉に、彼女は一瞬驚いたようだったけれど、やがて小さく息を吐いて、俯く。


そして。

「後悔しても知らないんだから」

少しだけ寂しそうに笑ってそう言うと、持っていたタオルを膝の上に置き、自らフードに触れた。


「……あなたは私の敵は誰かと訊いたけれど、私には敵なんていないの。あの子にとって私は敵かもしれない。それでも、どんなに心が離れてしまっても、私にとってはたったひとりの妹だもの」


呟くように。

まるで自分に言い聞かせるように、彼女はそう言った。


……そして。