「カノン。あなたを巻き込むことには、私、本当はまだ躊躇いがあるの。今ならまだ、あなたを解放してあげられる。
だけど、これ以上私のことを知られてしまったら、私は本当にあなたを護衛にしなくてはならなくなるわ」
「……俺はあんたの護衛、とっくに引きうけたつもりでいたんだけど」
フレイに頼まれた時点で、断るという選択肢はなかった。
令嬢も俺の気持ちは分かっていたと思うのに今更覚悟を問うなんて、やはり彼女が抱える事情は生易しいものではないらしい。
内心そんな考えがよぎったが、何でもないことのように言葉を返した俺に、令嬢は一度横に首を振り、言葉を続けた。
「今のあなたは、誰に命じられたわけでもないでしょう?フレイに頼まれたというだけ。まだ義務も責任も存在しないわ。
もしも今、あなたが私を見捨てたとしても何も問題ないし、あなたに何か罰が与えられるわけでもない」
令嬢の声はとても静かで、だけどまっすぐに心に響く、強い芯があった。
「だけど、もしも私があなたに護衛を命じたら、私の命にあなたは命をかけなくてはならなくなるの。見捨てることも、裏切ることも、絶対に許されなくなるのよ」
そこで一度、彼女は言葉を切り、ゆっくりと顔を上げた。
フードの下の唇が、再び開かれるのが見える。


