────彼女がそこそこの家の令嬢であることは、気付いていたつもりだった。
護衛を連れている時点でただの町娘ではないし、彼女の洗練された仕草も雰囲気も、一朝一夕で身に付くものではない。
しかるべき場所で育てられてこそのものだと思う。
だけど、それ以上の何かが彼女にはある気がした。
……もしかしたら俺は、本当にとんでもない状況に足を踏み入れてしまったのかもしれない。
令嬢はしばし黙っていたけれど、やがて小さく息を吐く。
「……あなた、カノン、と言ったわよね」
「え?ああ」
俺の質問に答えることなくそう言った令嬢に、頷いた。
思えばきちんとした自己紹介もしていなかった俺たちだけど、フレイが呼んだ俺の名前を、彼女はしっかりと覚えていたようだ。
そう言えば俺のほうは彼女の名前さえ知らないんだなと、今更気が付く。


