「いないわ。一緒に住むような家族は、私にはいない。両親はふたりとももう死んでしまったし、……家族、と言えるのは妹くらいだけど、今は別々に暮らしていて、もうずっと会っていないの。
だから、血のつながりがある妹よりも、毎日傍にいてくれるフレイのほうが私にとっては家族みたいな感覚なのよ」
そう言って微かに微笑んだ口元が見えた。
彼女の声はもう震えてはいなかったから、少しだけ安心する。
……だけど彼女が微笑んだのはほんの一瞬で。
すぐに、フッと諦めたように息を吐いた。
「本当、ばかみたい。自分の護衛に命を狙われるなんて」
そう言って自嘲気味に笑った声は、とても悲しげだった。
彼女の表情は隠されて見えないままで。
そもそも一度も彼女の顔を見たことなんてないのに、どうしてかフードの彼女の顔が想像できそうな気がした。
────護衛といっても、相手は人間。
絶対的に信用できる者など稀だろう。
貴族のなかには傲慢な人間もいるだろうし、そういう主人には反抗したくなることだってあると思う。
────だけど、この令嬢がそんな憎悪の対象になるようには思えなかった。
俺にさえ気をつかうような彼女が、普段は横暴に振舞っているとは考えにくい。
「……どうしてあんたの命を狙ったんだろう」


