空のこぼれた先に

痛みをこらえるような声は、微かに震えていた。

フレイが囮になることを受け入れたのは失敗だったのだと、今更気付く。

俺が代わりに残ればよかったんだ。

そうすれば、きっと令嬢はすぐに家に帰ることができたのだろう。


そんなふうに思考を巡らせていた俺は、しかしふと、思い当たった。


「……いや、でも。両親とか、兄弟とか……、家に帰れば家族がいるだろ?」


信用していた護衛に裏切られたのは、もちろん辛いだろうと思う。

だけど、当てもなく逃げているより家族のもとにいたほうが安心するのではないだろうか。

少なくとも、こんな森の中にいるよりはずっと落ち着けるはずだ。


それなのに、令嬢はそうすることを望んでいない。

それどころか、まるで家族よりもフレイを信頼しているかのような────、いっそフレイ以外の人間を全て敵とみなしているようにさえ思える令嬢の口ぶり。


「……」

考えるほど深まっていく令嬢の謎に、訊ねていいこととそうでないことの区別がつかなかった。

踏み込んではいけない部分まで踏み込んで、こんな状況に置かれてただでさえストレスを感じているであろう令嬢に、これ以上辛い思いをさせたくはない。