空のこぼれた先に


「……ルナから、来たの」


答えたその声は、わずかに震えているような気がした。


「王都から?そうか、じゃあ反対に進んで来ちまったな……。戻ったほうがいいか?家に帰るのが一番安全だろ」

こんなところをフラフラしているよりも、家にいたほうがずっと安全に決まっている。

きっと彼女は、護衛が大勢いるような豪邸に住んでいるのだろうから。

彼女の命を狙っていた奴らだって、そう簡単には近づけないだろう。

そう言うと、彼女はぶんぶんと勢いよく首を横に振った。


「ダメ。絶対にダメよ。せめてフレイがいないと……、私ひとりで帰るなんて無理だわ」


家に帰ることが怖い────、令嬢の強い声は、まるでそう言っているように聞こえる。


「……なぁ、あんたはいったい誰に追われているんだ?さっきの追手、あんたを傷つけることに躊躇いないように見えたけど。……ただの家出少女、なわけないよな」


怯えているようにさえ見える強い拒絶を示した令嬢に、俺は今更ながらの疑問をぶつけた。