「……あなた、びしょ濡れよ。はやく身体を拭かないと、風邪ひくわ」
令嬢はそう言うと、自分の鞄の中からタオルを取り出して、立ちっぱなしだった俺の方に差し出してきた。
そんな行動に、驚いてしまう。
彼女がいったいどこの令嬢なのかは知らないが、普通は従者より先に自分のことを気に掛けるだろう。……というか、まずは自分のことを心配してほしい。
俺は令嬢と対等な友人などではなく、フレイから頼まれて傍にいるだけの、いわば従者のようなものなのだから。
「……俺のことはいいから、あんたこそちゃんと拭け。髪、結構濡れてるぞ」
外套を着てフードまでかぶっていたとはいえ、それなりの時間を雨に当たらせてしまった。
首元から零れた金髪は、はじめて見た時は空気を含んだようにふわりとした綺麗なウェーブを描いていたのに、今は雨に濡れて重そうだ。
「大丈夫よ、これくらい。すぐに乾くわ」
何がおかしいのか、クス、と小さく笑って首を傾げ、再びタオルを差し出してきた令嬢。
俺はため息交じりにそのタオルを押し返した。
「俺は自分のがあるからいいんだよ」
背負っていた鞄を開けながらそう言った俺に、彼女はようやく納得したようだ。
「そう。それならいいの」
そう言って、やっと自分の髪の水滴を拭く。
俺は取り出したタオルでわしわしと自分の頭を拭きながら、丁寧に髪の水滴をタオルで吸い取っている令嬢をぼんやりと見つめた。


