……本当はもう少し進みたかったけど、取り敢えず今はここまでか。
そう思って、俺は令嬢に向かって「こっち」と声を掛け、道を逸れて林のなかに足を踏み入れた。
街道よりも足もとの悪い小道を前に、令嬢は進むことに少しの躊躇いを見せたけれど、結局すぐに付いてきた。
この林は大きな木が密集している。
地中に沈みきれずに出ている根に躓きそうになる令嬢の手を引きながら進み、街道から少し入ったところで足を止めた。
複雑に絡む、太い木々の根。
そして鬱蒼(うっそう)と生い茂った葉。
樹勢の良い大きな木が多い中でもひときわ存在感を放つ大きな木にたどりついた俺は、木陰にちょうどよく座れる幹と根の盛り上がりを見つけ、そこに令嬢を座らせた。
ぽつぽつと時折足下に雫が落ちてくるけれど、何にも守られない街道よりはずっといい。


