空のこぼれた先に


「……行こう」


しばしの沈黙のあと、俺はそう言ってくるりと方向転換をする。

そのとき、ぽつりと頬に冷たい水滴が当たったのを感じた。

反射的に見上げた空は、大半を灰色の雲で占められており、青空はほとんど見えなくなっている。


やっぱり降ってきたか、と心の中で小さくため息を吐いた。

本格的な雨になりそうな空だったから、小雨のうちになんとか屋根のあるところまで辿り着きたくて歩調を速めてはみたものの、目的地に辿り着くよりずっと早く、ぽつり、ぽつりと粒の大きさを増していく雨の滴。


「……っ、このまま進むの?」

整備が行き届いていない街道は泥でぬかるんでいる場所もあり、だんだんと足もとが悪くなっていく。

ちらりと後ろに視線をやると、濡れた外套を重そうにしながら、しかもフードで視界が悪いだろうに懸命に歩を進める令嬢の姿がある。

令嬢が声をかけてきたのは、目の前の細い道には果てが見えず、この雨の中どこまで進むのか不安になったからだろう。