「……フレイは、俺の姉なんだ」
歩調を緩めることはしないまま、俺ははっきりとそう告げた。
すると、後ろから「え」という驚いたような、控えめな声が聞こえてくる。
「でも、小さい頃に生き別れになって……、俺はフレイのことをほとんど覚えていないけど」
フレイは俺より5歳年上。
小さい頃に優しい姉が一緒に遊んでくれていたことはなんとなく覚えているけれど、はっきりとした記憶はない。
俺が10歳になる前に、彼女は突然姿を消してしまったから。
その理由を、両親は何も説明してはくれなかった。
……フレイ自身のことはよく覚えていなくても、フレイがいなくなった日のことはよく覚えている。
どうしてフレイはいないのか、とごねる幼かった俺に、ごめん、の言葉だけを繰り返す両親に、どうしようもない怒りが込み上げてきた。
最初は納得できなくて、何度も何度もフレイの居場所を両親に聞いていたけれど、そのたびに両親は決まってとても辛そうな顔をするから、やがて聞いてはいけないことなのだと幼心に悟って、いつの間にか聞くことをやめた。
考えるのは悲しいから、次第に、フレイという姉がいたことすら故意に思い出さないようにしていたんだ。


