その缶をゆっくり手で包むと、冷たかった自分の手がどんどん暖かくなっていった。
怒っているはずの朝陽さんが、急に優しくなるのは……ずるいと思う。
「大丈夫ですっ、これ…すきです」
「そ。ならいいけど」
「…朝陽さん…あたしの名前…」
あたし、朝陽さんに自分から名乗ったことなんてない。
なのになんで…。
「お前の名前、白崎あお だろ?」
「それはそうですけど…っ」
「…あのね、お前が俺に教えたつもりなくても、俺は知ってんの」
えっ。
呆れたように、朝陽さんは片方の手をエプロンのポケットに突っ込んだ。
「何回お前の本の貸し出しやってると思ってんの? 貸し出しのカードに名前思いっきり書いてあんだろ」
「…あ」
「しかもお前、教科書いつも裏向けて置くから、名前丸見え」


