【完】紅(クレナイ) ~鏡花水月~



唖然とする綾香をいい事にこのまま俺に身を委ねさせようと、首筋を這っていた唇を綾香の柔らかい唇へと移動させる。




ドガッ---


「……ぐふッ!!!」



俺の唇とが合わさった瞬間、すぐにこの状況には似つかわしくない音が部屋中に響いた。


突然の腹の激痛と共に俺の身体が吹っ飛ばされ、呼吸が出来ない。




クッ…、


息が苦しい---



腹を押さえながら何とか息を吐き出す。


そしてようやく落ち着いた時には、自分が寄りかかっている場所が壁だと気付いた。




チッ、


まさか女に腹を蹴られて、こんなところまで飛ばされるとはな。




ギュッと瞑っていた瞳を開け、視線を動かし綾香を探した。




「あや………か?」


腹と壁にぶつけた背の痛みも忘れ、ソファーから身を起こした綾香を目で追う。




ゴクン…、


自分の喉が鳴るのを聞きながら、俺の視線は目の前の綾香に釘付けだった。




綾香の…、


瞳の色が---



「く、紅?」


鮮やかな紅色の瞳を持つ綾香が、そこに佇んでいた。



先程まではたしかに、綾香の瞳の色は黒色だった筈。




それなのに今目の前にいる綾香の瞳は、紅色に輝いていたのだ。




それが酷く美しくて…、


自身の受けた痛みを忘れてしまう程の色香を伴う、紅色の瞳に俺は魅入られた---