「…章吾と呼んで下さい」 「ヘッ?」 今だ抱きしめている紅殿を見れば、前髪の奥に隠されている黒く艶やかな瞳が大きく見開かれていた。 そんなに驚くことではないでしょう? 貴女は時政殿や九門殿を、名前で呼ぶではないですか--- それともわたしの名を呼ぶのはイヤなのだろうか? 「そんな顔、しないで。…章吾」 紅殿がわたしの名を呼んだ瞬間、心に温かいものを感じた。