【完】紅(クレナイ) ~鏡花水月~



昨日、電話で声を聞いたばかりなのに…、


この紅茶の香りをかいだだけで、隆之さんが一瞬にして恋しくなってしまったのだ。



強いと思っていた自分がこんなにも弱いなんて、情けないな。




コクッ---


懐かしい隆之さんとの思い出が、口いっぱいに広がる。




「美味しい?」


「あっ、はい。…これ、セーデルブレンド茶ですね?」


「そうだよ。その口ぶりからすると綾香はこの紅茶、好きなようだね」


「はい、大好きです」


時政先輩のその問いに、ニッコリと微笑む。