【完】紅(クレナイ) ~鏡花水月~



突然現実に呼び戻されたことにより驚いて、思わず大きな声を出してしまった。


そんな私を見てクスクスと笑いながら時政先輩は、どうしたの?…と聞いてくる。



「いえ…、何でもないです」


そう言ってテーカップを口元に持っていけば、鼻腔をくすぐる紅茶の香りに目を瞑った。



この香りは…、

セーデルブレンド?


湯気から香る懐かしいこの香りに、鼻をスンッと鳴らす。


この紅茶は隆之さんが大好きでよく飲んでいたものだった。



ほのかに香る甘い香りの中にフルーティーな香りをしのばせてあるこの紅茶。


懐かしい香りに、私の目頭が熱くなってしまった。