【完】白衣とお菓子といたずらと

俺の耳に届いたのは予想していなかった言葉。


今まで、何度も聞いてきた言葉。


俺の記憶を、痛みを刺激する言葉。





「山下さんは、優しすぎますよ」




“優しすぎる”その言葉は、俺が振られるときのお決まりの言葉。


この言葉に俺はいい思い出がない。


小川さんから出た言葉に、今までの記憶が重なって、振られるのかと、急激に不安に襲われた。


「……」


何も言葉が出ず、恐る恐る小川さんの顔を見つめた。


小川さんの表情は、俺が思っていたものとは全く違っていて、少しだけ安心した。


彼女は満面の笑みを浮かべていた。


「優しすぎますよ。優しすぎるから、私みたいな人に捕まっちゃうんですよ」


「捕まってしまうって?」


彼女の気持ちが分からず、説明を求めた。


分かりやすい、はっきりとした言葉が欲しい。


「ずっと山下さんの事が好きだったんですよ」


嬉しそうに、可愛く笑う彼女から、俺が1番聞きたかった言葉が聞こえた。


……これって、現実だよな?


夢じゃないかと疑いたくなるのも仕方ないと思う。


だって、少し前まで、彼女の思い人は香坂だと思い込んでいたから。