だが、空狐は悪態を吐いたワケではなく、至って大真面目だったようだ。


「今のおぬしでは、どうやってもコヤツと一緒にヒナちゃんまで壊してしまう。
だから、死ね。
死んで、一時的に九尾の妖力を手放すンじゃ。」


「…」


「そうすれば、儂がコヤツの中におぬしを送り込んでやる。
コヤツはおなごしか受け入れんようじゃが、なんとか隙間をこじ開けてやろう。」


「わかった。
逝ってくる。」


逝く、て…
あー…そう?逝くンだ?

空狐のとんでもない提案に、由仁は躊躇なく頷いた。

そして、朱い隈取りが浮かんだままの顔で百合を見下ろしてから、扉の前に立つ樹を振り返り…


「樹、百合、頼む。」


短い言葉をかけた。

ナニを頼むって?
ナニが起こってンの?

ソレ以前に、その顔と瞳の色はどーした?

樹と百合には、わからないコトばかり。

だが樹は、軽く肩を竦めて口角を上げた。


「任せろ。
救命率からいって、リミットは3分だ。
2分半で蘇生を始める。
それまでになんとかしろ。」