「あ…ありがとう」
お姉ちゃんは複雑な表情だった。
わたしも意外な反応に戸惑っていた。
お姉ちゃんはきっといたたまれない気持ちになったんだと思う。
「あの、伊織君。私、あなたに」
「茜さん」
そのことに気付いた彼はお姉ちゃんの言葉を遮った。
「幸せになってください」
「…」
「じゃ俺、行きます」とその場を離れる彼をお姉ちゃんが呼び止めた。
「伊織君」
「…はい」
少しの、間。
やがてお姉ちゃんの長い睫毛が頬に影を作る。
「ごめんなさい。私に謝る資格なんてないよね」
彼はどんな顔をしているんだろう。
背中を向けたままの姿に彼の心は見えなくて。
「茜さん」
しばらくして彼が振り返った。「さっきの本音すよ」
「久しぶりに茜さんと会えて嬉しかった」


