「…久しぶり。元気にしてた?」
「このとおりすよ。茜さんも元気そうで。文化祭、見に来たんですか?」
「ううん。母に頼まれて妹のお弁当、届けに来たの」
「えっ文化祭なのに?」
「うん、ふふ。文化祭なのに。私もやってること知らなくてここに来てびっくりしちゃった。お母さん、呆けてきてるのかしらね」
「おばさん、ナイスボケ」
「ふふ」
わたしは驚いた。
あんなにお姉ちゃんと会うことを拒んでいた彼が、いつもと変わらず、ううん。
いつもよりもどこか浮き立っている。
「茜さんと久しぶりに会えて嬉しいです」
こんな素直な言葉が彼の口から出るなんて。
わたしの心がちくり、と痛んだ。
「あっこれ。借りてたCD、返します。ごめん、俺がずっと持ってて」
「あー!あなたが持ってたんだ。探しても見つからなくて諦めてたとこだったんだよ」
「NAO」のCDパッケージを眺めて、お姉ちゃんは少しはにかんで「なんか懐かしいね」と小さく呟いた。
わたしはその時、彼の目が泳いだことを見逃さなかった。
「まさかこのタイミングで見つかるなんて。実はこの曲、結婚式に使おうか迷ってーー」
そこまで言ってから、お姉ちゃんは慌てて口を噤む。
彼を気遣ったつもりだと思うけれど時はすでに遅し。
恐る恐る彼の様子を伺うが、
「莉子に聞きました。ご結婚、おめでとうございます」
と彼は変わらぬ笑顔で言った。