「なに、ぼっと突っ立ってんだよ」
えっ、と振り向くと通りすがりの人にぶつかる。
「ご、ごめんなさい!」
ざわざわと騒がしい廊下。
隣に並んでいたはずの彼はいつの間にか先を歩いていた。
慌てて後を追うと、わたしの様子を変に思ったのか、彼は立ち止まり、怪訝そうに眉をしかめた。
「なんかあったん」
「う、ううん。なにも」
「ふうん」
わたしってば。
せっかく伊織君と一緒なのに。
ー俺の好きな人が羽生のことを好きだから。
頭の中は智充君の言葉ばかりがリピートしている。
あの後たいした切り返しもできずに、そのまま逃げるように走り去ってしまったわたしは結局、あの言葉の意味を聞くことはできなかった。
だって聞いてしまったら…。
わたしは振り切るように頭を横に振った。
いや、ううん。
わたしの考え過ぎだよね。
思い過ごし。
うん、きっとそう。


