それからしばらく接客に追われ、ふと気が付けば時計の針は正午を過ぎていた。
わたしは急いで竹内さんに交代をお願いして、彼と待ち合わせ場所に指定している屋上まで小走りで向かう。
すると、背後から誰かがわたしを呼ぶ声がした。
「智充君…」
「よう莉子。久しぶり」
わたしはなんとなく顔を伏せる。
智充君とは前に映画館に行った日以来、ずっと話していない。
というのもあのキスがあったからだ。
わたしは寝ていたとはいえ、やっぱり気恥ずかしい。
「今、急いでる?」
「あ…えと、うんちょっと」
「そっか。いや、久しぶりに話がしたくてさ。もしよかったら、一緒にまわらない?」
「…」
どうしよう。
何と言って断ればいいんだろう。
口ごもるわたしを見かねた智充君が笑って言った。
「あっごめん。もしかして羽生と約束してる?」
わたしは間を空けて、小さく頷いた。
「あいつと付き合ってるの?」
「…直球だね」
「えっそうか?」
「うん。面と向かって聞いてきたのは智充君が初めて」
「みんな、お前らのこと噂してるよ」
「知ってる」
「それで」
「え?」
「本当に付き合ってるの?羽生と」
わたしは思い出していた。
ーこいつと付き合ってるのは俺だから。
あの時、彼の肩越しに見えた智充君の顔を。


