猫に恋する、わたし






”ビートルズの再来!
『エービー、C組』がROCKな夜を…”




翌朝、校舎中の全掲示板に貼られたチラシに全くひねりのないバンド名が大きく綴られたその下で、彼の名前がメンバーリストの中に入っていた。




いつもより騒がしく感じる廊下。

教室に入ると、彼の席は黄色い声に包まれている。



「ねえ、なに歌うの?」
「私、ラブソングがいい!」
「早く羽生君の歌声が聴きたいな」
「羽生君、上手だもんね」



何も聞かされていなかった彼はまさかバンドをやる羽目になるとは思いもよらず、提案者の近藤君をずっと睨みつけていた。

ちなみに近藤君はギター。

バンドを組むことが長年の夢だったそうで、巻き込まれてしまった彼はしばらく拒んでいたけれど、近藤君の勢いに押されて結局、文化祭の一週間前には放課後の練習に参加していた。



音楽室から流れるサスケの『青いベンチ』のメロディー。


『立入禁止』と一枚の紙が貼られている扉の窓の隙間からこっそり中を覗く。

嫌々ながらも歌っている彼の姿が見えた。


さすがサマになってるなあ、なんて惚れ惚れとしながら歌声を聴いていたら、ふと感じた冷たい視線。





「なに盗み見してんだよ」




彼に見つかってしまった。




「ごめん。これ、差し入れ」とすかさず購買部で買ってきたお菓子とジュースを差し出すと、


「おーっ!気が利くじゃん」


彼の背後からひょっこりと現れた近藤君にそれらを奪い取られてしまう。