慌てて後を追いかけるも、すでに彼の姿はなくて。
後悔先に立たず、とはこのこと。
わたしはその場にしゃがみ込んだ。
完全に調子のってるな、わたし。
ついこないだまで慎ましく生きなきゃとか言ってたくせに。
どんどん欲深くなっていく自分がいやだ。
「いいんじゃないの。恋愛ってそういうものだよ」
と菜々緒はポッキーを頬張る。
ホームルームの前になっても、彼の席は空っぽのまま。
落ち込むわたしを慰めるかのように、菜々緒がポッキーの残りを分けてくれた。
「今までが特殊だっただけで、ふつうはそういうものだからね。ワガママで結構。そこから男と女の関係は始まるんだから」
「…でも、嫌われたくないし」
「莉子のそういうところが羽生伊織にいいようにされるんだよ」
「だって…」
容赦ない言葉に返す言葉がなくて拗ねているわたしに、菜々緒は頭を掻いていった。「とにかく」
「羽生君、たぶん、文化祭に来ると思うけど。というより参加せざるをえないかも」
えっ、と顔を上げる。「上崎さーん」
すると、いきなりクラスの女子が菜々緒を囲んだ。
揃いも揃って、きらきらと目を輝かせている。
「文化祭で羽生君が歌うって本当?」


