「もうすぐ文化祭かー」


掲示板に貼り出された行事の一覧表を見ながら、菜々緒はため息をついた。

実行委員に選ばれたせいか、その顔は憂鬱そうだ。


「うちのクラスの催し決まった?」

「んー…」煮え切らない返事。

「どうしたの」

「昨年と一緒で合唱っていう案もあったんだけど、ピアノできる人ってあの子しかないじゃん」

「…ああ」


教室の中でただひとつの空席がやけに目立つ。

彼と別れたあの日以来、谷口さんは学校を休むようになった。


「相当ショックだったんだね」


わたしは何も言えないでいた。

そんなわたしを気遣ってか、菜々緒は話題を変える。


「それで莉子はどうなのよ。相変わらず、羽生伊織とラブラブなわけ?昨日も一緒に帰ってたでしょ」

「うん。でもそんなんじゃないよ。方向が同じだから一緒に帰ってるだけだし」

「またまたぁ。もうそれって付き合ってるのも同然じゃん」

「違うよ」わたしは即座に否定した。

「じゃあなに、まだ愛人ってこと?」

「ううん」

「だったらどんな関係なのよ」

「うまく言えないけど…」

「けど?」

「あれから、わたしたち、一からこう…、やっと出てきた芽を育んでるというか。自分でもよく分からないんだけどね」

「ふうん、なるほど。友達以上恋人未満てわけだ」

「うーん。どうだろ…」


渡り廊下の向こうから聞こえる笑い声。

まるで少年のような笑顔で男子と戯れている彼を見ていると、視線を感じたのか目が合った。