やがてわたしの隣で彼はスースー、と寝息を立てた。
天使の寝顔を見つめながら、わたしは深くため息を吐く。
水に濡れて体が冷えたせいなのか、それとも女の妬みを目の当たりにした恐怖感からなのか、手の震えが止まらない。
初めて人を、怖いと思った。
でもーーー。
もし、彼がお姉ちゃんのところに行ってしまったら。
もし、彼に好きな人ができたら。
そう考えたら、あの人の気持ちも少なからず理解できる。
例え遊びでも、わたしだってこの場所を誰にも渡したくない。
「どうしたら振り向いてくれるんだろ…」
わたしの小さな呟きは、誰にも聞かれることなく青空に消えていった。
一時間目が終わり、寝ている彼を屋上に残して教室に戻ると、案の定、クラスのみんながじろじろと見てきた。
智充君との噂もそうだけど、体育でもないのに、わたしのジャージ姿を不思議に思ったんだろう。
菜々緒の姿がなく目で探していると、いきなり谷口さんが話しかけてきた。
「ねえちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「え…」わたしは警戒する。
だって谷口さんの後ろでクラスメイトのみんながにやにやと笑ってこっちを見ていたから。


